テレコ2台

インタヴューを録音することを、未だに「テレコを回す」とつい言ってしまいます。「言ってしまう」というのは、実際の道具はテープレコーダーではなくICレコーダーであって、リールが「回って」いるわけでもないからです。過去の名残ですね。いつか意味が通じなくなるだろうと思うとなんだか愛おしい。

ICレコーダーは2台同時に回します。「録れてなかった!」という地獄を見ないためです。幸いにも私は致命傷を負ったことはありませんが、大事件はいくつも見聞きしてきましたので、明日は我が身と戒めています。近年は機内モードに切り替えたスマートフォンでも録音し、3系統を確保。それでも「絶対」は無いのですが、できる限り不安を減らした上でインタヴューに集中したいのです。同席する編集者さんが更にもう1台持参してくださることもあり、そういう時は不安が減りますし、「信頼できる方だな」とも思います。

回っていることを目で確認しないと心配だったので、時代に反してわりと最近までテレコも併用していました。使わなくなったのは、カセットテープの入手が困難になってきたからです。インタヴューを1時間行うとして、途中でテープを裏返さなくてもいいように使っていた120分テープが、たしか2012、3年ぐらいからでしょうか、あまり流通しなくなりました。もちろん、短いインタヴューなら90分や60分テープでも事足りたのですが。何種類ものカセットテープを入手・管理する手間を省き、以後、完全にICレコーダーに移行しました。

テーブルの上にレコーダーを置き、録音ボタンを押す前に「では、回させていただきます」と一言、相手の方に必ず了承を得るようにしています。ある大ベテラン俳優の方にインタヴューした時、マネージャーさん、代理店、クライアントの方々などがひしめくホテルの一室で、内心私は震えていました。失礼があってはいけない、と。レコーダーに手を伸ばし「では、回させていただきます」と小声で申し上げると、その方は「〝回す”と言うんやねぇ。回らないのに(笑)」と一言。場の空気(主に私の緊張)がほぐれました。

あるミュージシャンの方は、「〝2台回し″するんだ? バックアップは大事だよね~レコーディングでもそうだけど……」とご自身の録音ミス体験談を明かしてくださいました。テレコ時代には、「カセットテープ、懐かしい! 昔はさぁ……」と少年時代のエアチェック話を始めた方も。ちょっとしたやり取りですが、内容や語り方、声のトーン、取材者であるこちらとの距離感などを感じ取ることができます。質問をする前から、もうインタヴューは始まっているんですね。

テレコ(ICレコーダー)2台。名前つけようかな